2013年7月21日日曜日

Prince of Persia: The Sands of Time

Prince of Persia: The Sands of Time (予告)

2003年に発売されたPrince of Persiaのリブート作品。Jordan Mechnerが創りだした最初のPrince of Persiaが一番有名だと思う。
Prince of Persia(1989)

Jordan Mechnerが彼の弟の動きを撮影して、表現した独特のアニメーションは当時既に主流から消えていたApple ][のソフトをランキングに入れるという偉業を達成した。が、その後でた続編はあまりパッとしない物が多く、前作のPrince of Persia 3Dから4年経ってからThe Sands of Timeが発売された。ちなみに発売された時には全体的に好意的な批評とは裏腹に販売はパッとしなかったらしく、その年の終わりにはUbisoftの誰か偉い人のインタビューで「内容は優れていたのに売れなかった」と語られていた。私はその時点でPersiaシリーズ続編の印象が強く何とも思っていなかったのだが、Gamespotだと思うが優れたレベルデザインで評価を受けていて、その時初めて興味を持った。

ちなみに売れなかったのは本当らしく、私が買った時点で既に安くなっていた。正直、ディズニーっぽい印象が良くなく最初はあまり乗り気では無かったのだが、序盤が終わった時にはレベルデザインの素晴らしさに感動したのを覚えている。レベルデザインの素晴らしさに関しては今でもトップクラスだと思う。アクションゲームでは結構有名な作品でもレベルによってばらつきがあるのが普通だ。例えば優れたレベルデザインで有名なGod of Warでも、あるシーンでは登れるような壁が別なシーンでは登れなかったり、簡単な柵や透明な壁が結構ある。まぁそういうのは良くある悪い意味で「お約束」な代物な訳だが、The Sands of Timeではほとんどそういうお約束は無い。一見無理なのでは?と思うようなレベルでも遊んでいく内に主人公のアクロバティックな動作と共に攻略出来てしまう。

キャラクターアニメーションはモーションキャプチャーを使っていないという事で当時話題になった。その内の一人はYannick Bergeronという人で自身が作ったらしいDemoが公開されている。モデリングは今見ると流石に古臭いのだが、モーションは今見ても良くできている方なのではないだろうか。3Dのアニメーションで明らかに2つのモーションが繋がっていないとかは今でも見られる物だが、このゲームではどのモーションからでも滑らかに動きが繋がっており躍動感を感じさせる作りになっている。

戦闘はメカニズムを理解するまではやや単調に感じられる。チュートリアル以外では基本的に特定の条件下で時の短剣で刺さなければ敵を殺せないというデザインになっており、これがユーザに受けなかったらしく続編では完全にその要素がカットされた。ただ、慣れてくると次から次と敵を倒せるので優れた部分があるのだが、それに気が付かないと単調でストレスを感じる作りではあるので敬遠されたのかも知れない。ただ、Assassin's Creedシリーズではカウンターという形で残っているように感じられる。

レベルデザインで主人公のアクロバティックな動作でパズル的な事を行うのだが、こちらは素晴らしい出来。一見わけがわからないようなレベルでも徐々にプレイヤーに慣れさせるように作られており、また砂の渦に触れる事で解き方のヒントを見せる事でプレイヤーにゲームを放り出させないようにしている。また、短剣による時間巻き戻し能力のお陰で失敗が連続しやり直しで嫌になるのを防いでいる。時間巻き戻し能力は数に制限があるため、簡単すぎる物にはなっていない。三部作の後のリブート作品はこれに失敗し、無限にプレイヤーを助けてしまう。当たり前だが、そんな事をするとゲームのプレイヤーのやる事は作業になってしまう。

ちょっと脱線するが、優れたゲームデザインの例えにバランス調整を持ち出す人がいるが、バランス調整はあくまでもバランス調整であって、ゲームデザインでは無い。「誰にとっても等しく挑戦的である」みたいのを「優れたゲームデザイン」と評する人がいるが、プレイヤーの賢さや巧妙さに報いる(例え結果的にそうなったとしても)のがゲームデザインなのであって、上手であろうが下手であろうが同じレスポンスしか得られないような代物はバランス調整以前に単に破綻したデザインだと思う。プレイヤーの技術や努力は報われるべきであって、プレイヤーの愚かさは報いを受けるべきだと思う。明らかに失敗させようとしたり(初見殺しと言うらしい)するのは相当下品だと思うし、難易度を選べたりするのはあっていい。「無限にプレイヤーを助ける」なんていうのは破綻以外の何物でもない。

話を元に戻す。

レベルデザインの素晴らしさについて述べたが、ストーリーも素晴らしかった。攻めこんできた国の王子と攻めこまれた国の王女が助け合いながら最初は警戒しつつも(そりゃあ戦争してた当事者同士な訳で)共に危機をくぐり抜けて中で徐々にお互いを理解してゆく…みたいな話だ。私が書くと恐ろしく陳腐だが、「優れたゲームのシナリオ」とはゲームを遊んでいるプレイヤーの体験が全てだ。だから例え文章にすると陳腐な話であろうが、ゲームを遊んで得られる経験がゲームの根幹な訳で「素晴らしい筋立て=優れたゲームシナリオ」ではない。もしそれが本当にイコールなのだとしたら世界の名作でも元にしてゲームを作れば「素晴らしいシナリオだ!」という評価を受けそうな物だ。だが、そうならないのは当たり前だ。途中に挟まるムービー部分が傑作でゲーム部分がどうしようもない代物だったら、それはどうしようも無い代物だろう。格闘ゲームでアクション部分が崩壊しているがキャラクターが素晴らしい出来でも大半のプレイヤーには駄目なゲームしかならないのだと思う。

Assassin's Creedではゲーム開始から最後まで悲惨な筋書きが披露される。あの酷さを見るとどれだけ開発が困難だったかよく分かるという物だ(何回も書きなおした結果がアレなのだ、恐らくは。…まぁ大作では良くある話ですな)が、このゲームでは全ての歯車が精密な時計の様に噛み合っている。クリアした後は中々感慨深い物があった。今まで遊んだ中でエンディングが感慨深いゲームを10本選ぶとしたらこのゲームを入れると思う。GOGに登場したので簡単に手に入るようになった。サントラ欲しさに私は4本目のこのゲームを買った訳だがPrince of Persia全フランチャイズ中の最高傑作がこのゲームだと思う。ちなみにPS3やXbox360(PCもあった)でThe Forgotten Sandsというこのゲームのリメイクがあるのだが、………どうやって………こんな酷い代物に………とホラーゲームの日記みたいになるぐらい「酷い」。機械式時計のリメイクですって裏蓋を外したら\1,000円ぐらいのクォーツが入ってましたぐらいの絶句感だ。まぁそれでも時計は時計だ。でもまぁ良くもこんな酷い設定にわざわざ直したもんだ、と感じるぐらい酷い。いけ好かない王子が成長する話だったのが、とんでもなく影の薄い王子がぼんやりした表情で超絶アクションをこなす話になった。タイアップゲームは今も昔も変わらない。どんな素晴らしい作品もこんなゴミに。という商売の過酷さを垣間見させてくれる。

今となっては見慣れてしまった香港映画的なワイヤーっぽいアクションだがあれを一般的にしたのがこの作品だと思う。RocksteadyがBatmanでアクション格闘シーンのマイルストーンになったように、このゲームはアクションゲームのマイルストーンの一つだと思う。音楽を担当しているのはStuart Chatwoodで、今作以後の作品も担当している。